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うたわれるものSS
「イヤイライケレ」 
 
 
「ふう、なかなか寝付けないな」
ある夜、私は寝所に入ったはいいがなかなか寝付けなくて困っていた。昼間に近隣の集落の見回りに行き、それから特に予定も無く場内をぶらついていた所をハヤテに見つかり、稽古に付き合った。久方ぶりに受けた息子の剣撃は荒削りながらも力強く、日々の努力が伺えた。遠くでベナウィがそれを微笑ましそうに観ていた。
本当なら眠気が襲ってきそうなものだが、今日は何故かそうではないらしい。仕方なく酒でも飲もうかと思ったのだが昨晩カルラが酒瓶の山を作っていったのを思い出してそれも断念する。
どうしたものかと思案に明け暮れていると、寝所の入り口に人の気配がするのに気づいた。
「なんだ? 誰かいるのか?」
私がそう尋ねてみると、恐る恐るといった表情で長女のコノハが出てきた。両手には枕を抱えている。
「お、お父さん。あ、あのね、その、あの……」
私は娘と枕を交互に見やり、考えを察して少し布団を持ち上げてやった。すると彼女は嬉しそうに顔を輝かせ、人が一人入れるくらいの隙間にそろそろともぐりこんだ。
「お父さん、温かぁい……」
「そうか。……そういえば最近は、余りコノハと一緒に寝てあげられなかったな」
「ううん。いいの……。お父さん、毎日お仕事で疲れているし……」
娘の思いやりに胸を打たれて、ありがとうと言う代わりに頭を撫でてやる。柔らかい髪に指を通すと何ともいえない心地よさがある。やられているコノハの方も気持ちよさげに柳眉を下げている。
彼女の髪を苛めていると、私はふと懐かしい匂いを感じた。先程までは無かったはずだが……。
何かの花の匂いだろうか。それはふわりと私の周囲を流れているようで、ひどく鼻をつくわけではないが、どこか私の記憶を刺激しているような気がする。
いや、これは人物の匂いだ。
誰のものだろう。
 
 
「それじゃあユズハちゃん、お大事にね」
「はい。エルルゥ様お休みなさい」
エルルゥがユズハの部屋から出てきて、そのまま廊下の向こう側に消えていった。おそらく自分の部屋に戻るのだろう。私は周囲に気を配りながら幕間から先程エルルゥが出てきた部屋に入る。
「ユズハ。調子はどうだ?」
「ハクオロ様ですか。ええ、ユズハは大丈夫です」
淀みなく答えた彼女の近くに、私はいつものように腰掛けた。顔色を確かめてみるが、なるほど、確かに大丈夫のようだ。
何を話そうかと考えて、集落のことを言おうとした時、ユズハは徐に体を起こすと、ちょうど私の横手にある窓の前に立った。窓といっても、それは光を取り入れるための小さな空間で、十字の格子が真ん中に嵌められている。
その隙間からは我々人間が生まれてからその命が尽きるまでずっと、いやそれよりも長い時間輝き、人々を魅了し続けている無数の宝石が見える。時には人々の旅路を支え、またある時は戦地に赴いた男達がそれに愛する者を重ねる。
彼女はしばしそれを見ているようだった。こちらから見える後姿は窓からこぼれる青白い光によって輪郭が際立つようである。
少し痩せたんじゃないだろうか。
元々細身の身体ではあるが、今目の前にいる彼女の背中はひどく弱々しかった。大丈夫と言っていたけれでも背中は如実に現実を語っているように思えた。
チリィーン…………。
窓から吹き込んだ一陣の風によって、ユズハの首元の鈴が鳴った。兄からもらったそれを着けているのだろうか。普段は確か身に着けていないはずだが……。
と、同時に彼女が振り返り、瞳を静かに開いてゆく。
 「ハクオロ様……私に、ユズハに生きた証をくださいませ」
 「ユズハ!? 何を言って」
 突然のユズハの願いに思わず言葉を無くす。それが一時の感情や死への不安からの刹那的な思い付きでの行動でないことは、彼女の目を見れば分かる。ユズハが彼に向けた表情はどこまでも真剣で常日頃の儚さは感じられない。
 だが、本当に良いのだろうか? 確かに私はユズハを愛しているが、それはむしろ父が娘に向けるそれに近い。初めてトゥスクルさんに連れられて彼女に会った時はある意味、ただの病弱な少女だった彼女は、あれから私の中でずいぶんその存在を大きくしていった。
 不治の病。
 病名は定かではないが、彼女の身体を蝕む病魔は決して彼女をそこから解放することはないらしい。生き続けるためには高価な薬を定期的に投与する必要がある。幸いにも私がここトゥスクルの皇になったことでそれは賄えているが、だからといって容易に手に入るものだとは言いにくい。腕利きの商人であるチキナロをもってしても得難いようで、量は微々たるものだ。私やオボロが苦労してそれを手に入れていることを、どうやらユズハも薄々気づいているらしく、心優しい彼女にとっては生命を脅かす大熱よりも苦しいものであるに違いない。
 私はそんな彼女の気持ちを養い人という立場で利用しているのではないだろうか。ユズハに対する愛情もそれはただのエゴイズムであり、「彼女のために」という大義名分をもって彼女の兄や城の兵士達の信頼をえているのではないだろうか。
 だが、そういう気持ちがある一方で、私は彼女に女性としての愛情を持ってしまっている。
 夜になって彼女の部屋からエルルゥが出て行った後を狙って、彼女の元を訪れているのは心配だからということだけではない。日々の煩わしさとは隔絶されたあの一室にやすらぎを求めている自分がいる。そっと幕をめくると、ふわっと仄かな花の香が私の鼻孔をくすぐるのだ。
なんという花だろうか。彼女の周りにはいつも不思議と私を安心させてくれる匂いが漂っている気がする。それは幻想なのかもしれないが、彼女の慎ましやかな振る舞いが私にそう感じさせているのかもしれない。
 ゆっくりと寝台の縁に腰掛け、手慣れた動作で頭を撫でてやる。私が来た時は何をするかを彼女も心得ていて、身体を起こしてそれを受け入れる。すると彼女は顔をほんのり朱に染め、私の肩に身体を委ねてくれるのだ。
 私は彼女の喜ぶ顔が見たくなり、肩に腕を回してやる。初めの頃は恥ずかしいのか身体を震わせていた彼女であったが、最近ではそれもなくなったようだ。
 しばらくそうやって互いの体温を感じあっていると、ユズハはその光を映さない眼を向け、まるで何かを訴えるかのように見つめてくる。むずむずと唇を動かし、だが決して言葉を発することは無い。自分から「それ」を求めるようなことを彼女は出来ないのだ。
 そんな私だが、次第に諦めて落胆の表情を見せ始めるのが我慢できなくて、いつもこちらから唇を重ねてしまう。案外、私の方が彼女に上手く乗せられているのかもしれない。
 触れ合うだけの短い接触だが、私達はそれを永遠であるかのように感じあう。他の女性達とも幾度と無く接吻をしている私であるが、彼女とのそれは何か特別な、えらく神聖なものであるように感じている。
 短い夜の逢瀬はそれで終わりを告げる。名残惜しそうに互いの視線が合うが、私はすぐに部屋を後にする。もうすぐしたら彼女の兄が見舞いにやってくるだろう。妹を溺愛する彼にとっては私とて「悪い虫」らしい。
 私はこの時だけ、義弟の存在を疎ましく思ってしまうのだ……
チリィーン…………。
 「ハクオロ様。私に生きた証をくださいませ」
 もう一度彼女はそう言った。より強く、はっきりした口調で。
 「…………」
 尚も返事をしない私に、彼女がゆっくりと近づいてきた。そしていきなり寝台に押し倒された。決して力負けするようなことはないはずなのに、なにか特別な力でも働いているのか、いとも簡単に圧し掛かられる。
静止しようとした口を暖かい何かで塞がれる。普段の控えめな交わりではない、まるで自らの存在をこちらに覚えさせるような熱烈な接吻に驚きを隠すことができない。不器用だが必死に唇を押し付けてくる彼女の瞳は閉じられているけれども、断固とした決意を秘めているように感じる。
 目の前にある伏せられた瞳。
 擦れあう鼻。
 そして、私の理性を奪ってゆく唇。
 その全てが私の行動を封じ、身体に「記憶」を刷り込んでいく。
 抵抗せずに行為を受け入れていると、ユズハが顔を離して言った。
 「ごめんなさい……ハクオロ様。こんな、いやらしいことを……」
 彼女の瞳から涙が溢れ出す。先程の凛々しかった表情はもはやどこにも無い。顔を真っ赤にして、自らの行いを恥じるようにただ手をぎゅっと握り締めている。自分で言い出したことを、いざ実行に移してみたところ、どうしようもない恥ずかしさに耐えられなくなったのだろう。
無理も無い。ただでさえ幼い頃から周りの者に守られ、過保護に育ってきた彼女だ。性の知識はおろか、世間一般のことですら知らないのである。年齢もまだまだ少女のそれだ。
「……私の命は、もう……なが……くあり、ません……だから……」
ユズハの言葉に私は衝撃を受けた。
彼女は気付いているのだ、自分の命が残り僅かであるということを。以前エルルゥからユズハの発作の間隔が大分狭くなってきていると聞かされた事があったが、彼女はそれを聞いていたのだろうか。いや、聡明な彼女のことだ、きっと周りの雰囲気をそれとなく察したのだろう。
自らの死を予期した時、彼女はどう思ったのだろうか。
そして、どんな思いで私にこのような事を言ったのだろうか。
こう考えた時、私は思わずユズハを抱き締めていた。自らの煮え切らない態度が腹立たしかったのだ。口では心配だなどと言いながら、彼女がアルルゥ達と相変わらず戯れているのを見て、どこかで「まだまだ先のこと」と現実から目を背けていた。だからさっき私は彼女の気持ちを真剣に受け止めることができなかった。
一度離れた身体が再び触れ合う。思わぬ行動に驚いたのか、小さな悲鳴を上げようとしたが機先を制した私の言葉によって打ち消される。
「本当に……私で良いのか?」
言葉の代わりに彼女が私の背中に腕を回し、ぎゅっと力を入れる。
そして私はこの時また、あの幻想的な花の香が私を取り巻いていることに気づく。いや、幻想などではない。今度はしっかりと知覚できている。
私達は再び互いの唇を合わせると、そのままゆっくりと寝台にその身を沈めていった。快楽という闇に落ちた私にとっては、あの匂いだけが唯一の光明なのかもしれない。
愛しい君の元に戻れる唯一の……。
 
 
そうか、これはユズハの……
どうやら私の記憶をくすぐっている匂いは、今は亡き彼女の母のものであるらしい。時を越え、世代を越えて受け継がれたユズハのそれ。それは彼女がユズハの子である証。
不思議なものだな。一度も会ったことのない二人が同じ匂いとは……。
それにしても、何故私は今の今までこんなことに気がつかなかったのだろう。コノハと寝てやるのもこれが初めてではないというのに。
気づきたくなかったのかもしれないな……。
私は今でも、ユズハに対して責任を感じているのだな。だから心がこの子を彼女の娘であるという認識を拒否して、今まで気づかせなかったのかもしれない。お前を死なせてしまったという後悔が、私をこの子にとってただの養父にしていたのかもしれない。
そういう私の卑怯な感情をこの子はいつのまにか気づいていたのかもしれない。甘えさせていたつもりが、逆に私のほうが甘えていたのかもな。
ユズハ、私達の娘は立派に育っているぞ。ユズハが生きた証はこの子にしっかり受け継がれているからな……。
ハクオロはいつの間にかやすらかな寝息を立てる愛娘に向かって呟いた。
 
ありがとう、と。
 
 
 
 
 
 
あとがき
 
どうも、セシリアです。
 
えー、非常に恥ずかしい内容です。私はPC版をやったことが無いので、どういう風に描写されているか分かりません。自分だったらこうやってもっていくかな? という感じで書きました。如何だったでしょうか。
 
実は、この作品をUPするにあたり、一度管理人様と掲載するかどうか話し合いました。最初にこのSSの原作を送った際、現在より幾分過激な内容だったからです。
 
このサイトの目指すものから逸脱してしまったことをお詫びします。
 
ですが、私自身ユズハの「それ」について言及したかったということがありましたので、再構成という形でこちらの方を投稿させて頂きました。現在私の手元には再構成前の原案があります。たかや様のサイトに直接掲載させて頂くことはできませんが、もしどうしても読んでみたいという方はお手数ですが直接メールにて私にお知らせ下さい。
 
話は変わりますが、今回の作品を書いたきっかけはBBSでお知り合いになった俊さんの影響が大きいですね。ユズハを愛してやまない方です。私自身はそこまで彼女に愛を感じていなかったのですが、俊さんに影響されましたね^^
「俊さんへ セシリアより愛をこめて」
って感じですw 
 
作品のタイトルはアイヌ語です。意味は……考えてみてください。ヒントは私が題名を付ける時の法則っぽいものを考えてください。これより前にUPしていただいた作品にヒントがありますね^^
 
それでは^^