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 「本当に、風が気持ち良い―――」
 
 
 
 一面に広がる緑。はるか見渡す先まで続く台地は、春になれば色とりどりの花々に色づく。
 
 
 今はまだその季節には少し早くて、でも次第に命の息吹が芽吹いてくる、そんな時期。厳しい冬を過ごして、今か今かと待ちわびていた暖かさが戻ってくると、雪解け水を糧として若々しい命が顔を覗かせた。
 
 
 この場所を訪れたのは本当に久しぶりのことです。
 
 
 貴方がいなくなって、その存在の大きさがよく分かりました。
 
 
 いつもみんなの中心にいた貴方がいないことが、これほどにも大きな影響を与えるんだって、実感します。貴方がお城を空けただけで、強く硬い絆で結ばれていた仲間達が次第に離れていきました。
 
 
 勿論、今でも時折風の便りで元気だって事を知ったりしますし、気が向いたようにふらりとこの里に立ち寄ってくれる時だってあります。
 
 
 それでも、かつてのように毎日顔を合わせるわけじゃありませんし、カルラさんやトウカさんは各地を放浪しているので、最後にその姿を見たのが数ヶ月前になりました。
 
 
 一度だけこちらに帰ってきて、ふらりと立ち寄ってくれましたが、たくさんのお話をお土産に一晩を過ごして、日が明けた頃にまた旅立っていきました。
 
 
 だけど、相変わらずオボロさんたちとは会ってません。言伝のようなものが二、三送られてきたばかりで、あの日からわたし達が一同に会したことは無いんです。
 
 
 それだけ、貴方の求心力が大きかった、ということですよ。
 
 
 みんなが貴方に吸い寄せられていたみたい。ぽっかりと空いた大きな穴を塞ぐことはとても大変なことで、容易に埋められない風穴はだんだんとわたし達の距離を広げてしまったみたいです。
 
 
 だけど……それも、言い訳なのかもしれませんね。
 
 
 貴方が居ないと自分に言い訳して、その悲しさを埋めたくないから、歩み寄ることを避けていたのかもしれません。
 
 
 皆さんは自分自身でその気持ちに整理をつけました。
 
 
 ベナウィさんはハクオロさんの居なくなった穴を埋めるため、いつも多忙な生活をしているみたいです。
 
 
 ウルトリィ様とカミュちゃんは、オンカミヤムカイに帰ってしまいました。賢大僧正や皇女としてのお仕事も大変みたいですが、今も平和の為に尽力なされているみたいです。カミュちゃんは時々アルルゥのところに遊びに来ているみたいですが、ムントさんが怒っている様子が想像できて、相変わらずなのかな、って思います。
 
 
 オボロさんやトウカさん、カルラさんは旅に出ました。
 
 
 それぞれ思うところは別にあるみたいですが、貴方の意思を継いで目的を果たそうとしているみたいです。
 
 
 だけど、離れ離れになったいまでも、ほら。
 
 
 みんなが貴方を中心に動いている。
 
 
 それぞれの道を歩き始めたのに、その中心には必ず貴方の面影があります。
 
 
 わたしも、そうです。
 
 
 本当なら、貴方を失った悲しみを癒そうとするのでしょう。
 
 
 同じ悲しみを背負った仲間達と、貴方について話して、その痛みを和らげようとするのかもしれません。
 
 
 でも、わたし達はそうしませんでした。
 
 
 みんながどう思うのか、それはわたしには分かりません。
 
 
 ただ、わたしは貴方がいなくなった悲しみを、その穴を埋めようとは思いませんでした。
 
 
 貴方を『過去』にしたくはなかったから。
 
 
 語り合うことは、貴方がいたという事実を『思い出』にしてしまう作業です。『思い出』は過ぎ去った出来事で、二度と返ってこない過去を記憶に留めるための手段。
 
 
 悲しいとき、辛いとき、悩みを抱えたとき、その思い出を糧にする為に楽しかった過去を振り返る。
 
 
 でも、貴方はいなくなった訳ではなく、少しの間お休みしているだけ。
 
 
 だから、貴方のことを『思い出』にしたくなかった。
 
 
 いつか必ず還って来ると、そう誓った貴方を『過去』にしたら、誰が貴方と共に歩むことができるのでしょう。
 
 
 同じ道を歩くためには、貴方を待っていないといけなかったから、わたしは悲しみを癒したくなかった。
 
 
 それに……。
 
 
この大きな傷跡を消さなければ、それだけでいつも貴方のことを意識していられるから。
 
 
 貴方がどんな人だったか、胸の深奥に刻みつけることができるから。
 
 
 だから、この胸の痛みでさえもいとおしくて、貴方の面影を失いたくなくて、こうして嘆いているのです。
 
 
 
 
 
 だけど。
 
 
 
 
 
 今、わたしはあの日以来始めてこの場所に帰ってきました。
 
 
 貴方と、わたしと、アルルゥと。
 
 
 家族がまだ『家族』でいられた頃。その幸せの象徴であるこの場所に、今わたしは立っています。
 
 
 次に来るときは貴方と共に、と決めていたけれど、今わたしは一人きり。
 
 
 あの頃と変わらない空の下、記憶と同じ草原で、あの日と同じように老木の幹に体を委ねて。
 
 
 きっかけは貴方の夢でした。
 
 
 貴方が始めて私に触れ、語り、抱きしめてくれた夢。
 
 
 それがわたしに、大切なことを気付かせてくれたのです。
 
 
 いかにわたしが愚かだったのか、ということを。
 
 
 貴方を思って、心に残る大きな穴を塞ぐこともせずにいた事。わたしにとって、それこそが最善であり、望みだと信じて疑わなかった。
 
 
 そうすればどんなときだってわたしと貴方は共に在り、いつかまためぐり合える時が来ると信じていたから。
 
 
 そもそもそれこそが大きな間違いだったのです。
 
 
 何故なら、初めから貴方は此処にいたんですから。
 
 
 わたしはそって胸に手のひらを当てた。トクン、と脈打つ心臓の鼓動。そして、考えるだけで溢れてくる貴方との楽しい記憶。
 
 
 貴方の手が、声が、体が、笑顔が、貴方に関するひとつひとつの思い出が、湧き出るようにこみ上げる。
 
 
 
 
 
 そう、貴方は初めからわたしの胸の中にいたんです。
 
 
 いつか貴方が戻ってくると、わたしが後ろを振り向いている間に、貴方は先へと進んでしまったのかもしれません。
 
 
 初めから同じ道を進んでいたのに、貴方がいなくなったことを言い訳に歩くことを止めてしまったから、だからその理想へと歩き続けた貴方がわたしを追いかけてくることなんてなかったのに。
 
 
 それでも自分自身を騙して、悲劇を気取って苦しい道のりを挫折したから、その距離は開く一方。
 
 
 開くばかりの距離。あのままなら、わたし達の再会は永久に訪れなかったに違いない。
 
 
 そのことを教えてくれたのは、やっぱり貴方でした。
 
 
 後ろを振り返るわたしを後ろから抱きしめ、前を向いて走るように促した。
 
 
 あの時の夢は、きっとハクオロさんからの言伝じゃないかと、そう思います。
 
 
 
 『笑って―――』
 
 
 
 確かにそう聞こえたあの瞬間、わたしの心の中で何かが弾けた気がしました。
 
 
 そして確かに感じるこの温もり。
 
 
 見かねた貴方が、わたしの夢に出て教えてくれたんじゃないか―――。
 
 
 
 「前を向いて、歩きなさい」
 
 
 
 と、いつものように優しい言葉で、わたしを導いてくれたんだと、そう思います。
 
 
 思えば貴方はいつもわたしの先を歩いて、その手を引いて歩いてくれました。
 
 
 ただ、ちょっとした弾みで手が離れてしまっただけなのに、その差を必死に埋めようとしなかったわたし。あの辛い思いは、そんなわたしに対する報いだったんじゃないか。
 
 
 でも、そのことに気が付いた今、わたしはその距離を少しでも埋めようと必死に走っています。
 
 
 そしてたどり着いたこの場所。
 
 
 今わたしが立っているのは、夢の中で貴方が立っていた木の下。
 
 
 ならばきっと、あの日の貴方には追いつけたんじゃないかって、そう思います。
 
 
 いつか貴方に追いついて、追い越し、逆にわたしが貴方の手を引いて色々な世界へと連れまわすんです。
 
 
 今度こそは、決して離れ離れにならないように、ぎゅっとその大きな手を握り締めて。
 
 
 
 
 
 
 
 
 暖かい胸の置くに秘められた、この想い。
 
 
 貴方は、今もきっとわたしを待っているのでしょう。
 
 
 その影に追いつけるその日まで、再び貴方と巡り合える日が来ることはない。
 
 
 だけど、確かに貴方はわたしと共にある。
 
 
 この胸の安らぎを信じるならば、きっとそこに貴方はいる。
 
 
 わたしと貴方は一つだから。
 
 
 心はいつだって貴方と一緒。
 
 
 だから、待っていてください、ハクオロさん。
 
 
 今、貴方はここにはいないけれど、きっと未来のどこかで、共に歩むことが出来る日が来るでしょう。
 
 
 その日が来るまで、わたしは先へと歩んでいきます。
 
 
 その先に、きっと貴方が待っているはずだから。
 
 
 必ず追いついて、その広く大きな胸に飛び込んで、暖かい腕に抱きしめられて、一杯一杯文句を言って。
 
 
 ―――そして、最後にこう言うんです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「―――おかえりなさい、ハクオロさん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 今はただ、想いを乗せた唄を届けましょう。
 
 
 あの日と同じ木の下で、喜びを、悲しみを、希望を、悲嘆を、そしてこの胸の想いを乗せた子守唄。
 
 
 わたしの全てを注いだ言葉を紡げば、春の訪れを告げる風がきっと想いを運ぶ。
 
 
 ねぇ、ハクオロさん。
 
 
 わたしは、まっすぐ、前を向いて進みます。
 
 
 その先にある輝かしい未来を望んで、ひたすら真っ直ぐに―――。
 
 
 だから聴いて下さい。
 
 
 今はただ、この唄に全てを込めて唄います。
 
 
 
 
 
 そう、それはただ、キミガタメに奏でる唄―――
 
 
 
 
 
 
 







 
 
 
 
 
 あとがき
 
 
 
 
 
 あとがきとしては初めまして、ですね。
 
 私は短編ではあとがきを書こうとは思っていませんでした。短編作品も、みんな自分の書いた作品で愛着を持っていますが、それでもあえて初めてあとがきを書くなら続き物の終わりで、と思っていましたので。
 
 というのも、続き物というのは、当然そこに込めるテーマとか主題とか、そういったものを一貫して伝える作品だから、と思っているためなのですが。
 
 私にとってのあとがきは、一つの物語が終わったその証で、感覚としては高校時代の文化祭が終わった後片付け、のようなものです。当然舞台裏を見るのは基本的に共に頑張った友人や先生だけの権利です。作品の読了感を損ないたくない、とかお祭りを楽しみにきた見物客でいたい、という方がたは飛ばしてくださってもけっこうなスペースですので、一応上に戻るボタンを置いておきますねw
 
 それでも、皆様がお付き合いくださるなら、下の駄文もどうぞご覧になって下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて、この『キミガタメ』ですが、indexにも書いたとおり、『うたわれるもの〜散りゆく者への子守唄〜』のED曲で使用されている同名の曲、『キミガタメ』に対するオマージュ(といってもそこまで美化されたものではないですが)です。
 
 正直に告白すれば、まだPS2版はクリアしていないのですが(汗)それでも、この作品の終わりが変わってしまうなんて想像できませんし、PC版と同じ終わり方だと思うので、ED後の作品を書かせていただきました。
 
 まさか、最後でハクオロが大封印されないとか、帰還EDがあるなんてこと、さすがにLeaf様ならしないと信じておりますのでw
 
 この作品は一貫してエルルゥの視線、ED後の心情を通して描いてみました。
 
 この作品を読んでいらっしゃる方なら分かると思うのですが、ハクオロと別れてから、ED後のキャラクターたちが現れるまでに幾許かの空白時期があります。
 
 
 
 少し脱線しますが、『うたわれるもの』という作品は『ハクオロ』という人物がいなければ成り立ちません。こうした作品は、いわゆるギャルゲーとしては珍しく主人公の個がなければ存在できない作品です。
 
 主人公がある特定の人物でなければ成り立たない作品は、考えてみれば幾つか思い浮かぶと思います。そこに例えば、自分の名前を突っ込んでしいましょう。
 
 どうです、とても違和感がありませんか?
 
 恋愛シミュレーションはシミュレーションですから、当然自分が主人公になれなければ成り立ちません。
 
 だから『ハクオロ』でなければ成り立たない作品はいわゆる『ノベルゲーム』であり、プレイヤー主人公の作品であります。
 
 プレイヤーは『ハクオロ』という人物の物語を、第三者視点で見届けることで物語として成り立つのです。
 
 まあ、『ハクオロ』に自分の名前を入れても記憶喪失になってトゥスクルさんに『ハクオロ』と名付けられるだけですがw
 
 
 
 さて、この物語では、主人公『ハクオロ』が全ての中心となって生きた物語が語られます。
 
 全てが彼を基準にして動いていますので、当然そんな『彼』がいなくなった穴は、『うたわれるもの』という作品のなかで非常に大きなものだと思うのです。
 
 となれば、ED後のエピソードでキャラクター達はその大きさを感じながらもそれぞれの道を歩んでいます。そこに至るまでに、全ての中心に空いた穴を何かしらで塞がないと人は先に進めません。底に穴のあいたコップでは水がこぼれてしまいますから、当然気持ちに折り合いをつけて新たな人生を始めていると考えた訳です。
 
長くなりましたが、この『キミガタメ』はエルルゥがどうやって心の穴を埋め、歩き始めたのかを通して描いた作品になりました。
 
 当然、キャラクターの数だけその物語はある訳で、それらも当然物語として語ることが出来るでしょう。
 
 ただ、私が今それを書くのかといわれるとそうではないですし、いつか書くのかといわれたら首を横には振れません。
 
 ……あぁ、そうだ、皆様が書いてくださっても勿論結構ですよ? 完成した暁には私に送っていただければすぐ掲載いたしますしw うん、それが良い!
 
 ―――半分本気な冗談はさておき、私はこうしてエルルゥの空白期間を補完したのです。
 
 いかがだったでしょうか。個人的には初めて「感動した」という感想がいただけて、舞い上がってしまいましたがw
 
 今後もまた新たな作品に取り組んで行きたいと思いますので、どうか今後とも宜しく御願い致します。
 
 
 
 
 
 ああ、言い忘れていましたが、この作品はSuaraさんの歌う『キミガタメ』の歌詞の内容からストーリーを妄想で補って抽出し、アレンジしたものです。Suaraさんのアルバム『夢路』を買って聴きながら読んでいただいたり、歌詞と見比べて読んでみると面白いかもしれません。
 
 それでは、これにて退散させていただきます。ここまでお付き合い頂きまして、本当に有難う御座いました。   たかや