うたわれるもの長編SS
「絆」 
 
第一話「私は毎日幸せです」
 
 
私はお母様のお顔を見たことがありません。
 
だから私は、お父様にお聞きしました。
「お父さん。どうしてコノハにはお母様がいないの?」
そうしたらお父様は困った顔をして言ったんです。
「コノハの母さんはな、お星様になったんだよ……今も、そしてこれからもずっと、私や、コノハや、皆のことをいつも見ているんだよ」
お父様は優しい人です。だから私が傷つかないように、こう言ったんです。
そんなお父様のことが大好きです。
でも私は知っています……
コノハを産んですぐにお亡くなりにった、とオボロおじ様が言っていたから……
オボロおじ様は私のお母様のお兄さんで、お父様の義理の弟でもあります。オボロおじ様は格好よくて、強くて、とても素敵な人です。
おじ様は私が小さいとき、私を色々なところに連れて行ってくれました。たくさん綺麗な所を見て、私がうれしそうに笑うと、おじ様は決まって私の頭を撫でながら言います。
「コノハ、綺麗だろう?」
「あい!」
「コノハ……お前の母さんはな、身体が弱かった。だからほとんど外に出られなかった。こういう綺麗な所にも来れなかったんだ」
「ふーん」
「……でも、心は誰よりも強かったんだぞ……」
「こころ……つよい……?」
「ああ……」
私はそのとき、おじ様が言っていたことがわかりませんでした。でも、おじ様が撫でてくれたときの手は、すごく暖かかったです。
おじ様はよく私と遊んでくれます。本当はお父様とも遊びたいけど、お仕事が忙しいみたいです。我慢してお仕事が終わるまで待っていたいのに、すぐに眠くなっちゃいます。
それでも時々お仕事が早く終わる日があって、急いでお部屋に行くんです。でも、私はいつも一番になれません。
私がお父様のところに行くと、いっつも妹のエルフィが先にいるんです。
エルフィはお父様が大好きで、お仕事してる時でもお父様の側にいて、お膝を取っちゃうんです。それでよくお義母様に叱られています。
「こら、エルフィ! お父さんから離れなさい! お仕事ができないでしょ!」
「やー!」
「もう、この子は! エルフィー!」
 
でも、ちょっと羨ましいです。
私には恥ずかしくて、とてもできないから……。
 
 
エルフィは二つ年下の妹です。私のお母様が私を産んですぐにお亡くなりになったので、エルフィのお母様のエルルゥ様が、私の今のお母さんです。
私とエルフィはとっても仲良しです。お城にはあんまり私たちみたいな子供がいないから、いつも二人で遊んでいます。一緒にお花を観たり、刺されると痛いけどおいしいハチミツを取りにいったりもするんですよ。
そうだ。私の兄弟はエルフィだけじゃないんです。
あ、ちょうどあっちから……
「おーい! コノハ姉さーん!」
「あ、こら……ハヤテ!」
向こうから弟のハヤテと妹のカスミが走ってきます。二人とも泥だらけ。どうやらいつも通り、兵隊さんごっこしてたみたい。
「二人とも、また兵隊さんごっこ?」
「姉さん! これは兵隊ごっこなんかじゃないよ。特訓だよ!」
「そうです、ねえさま。それがしたちはあそんでなどいません!」
「そ、そぉなの……?」
ハヤテもエルフィと同じで10歳。カスミは8歳です。二人はいっつも泥だらけになって遊んでいます。お義母様は洗濯物が増えて大変なのに……。
二人のお母さんのトウカおば様はとっても強い剣士様です。お城の兵隊さんたちに戦い方を教えたり、お父様がどこかへ出かけるときのお守りをしています。
そのせいなのかな、二人はいつも、「早くお母さんのようになりたい」って言ってます。ハヤテはよく兵士さん達の隊長のクロウさんの所で稽古してるみたい。
「先生!」
「ん、おお、ハヤテ皇子ですかい。それより止めてくださいよ、その先生っての」
「なんで? 先生は俺に戦いを教えてくれてるじゃないか! それに、先生だって俺のこと『皇子』って呼んでるじゃん。それに堅苦しいし」
「お、皇子。しかしですねぇ……」
「おやおや、クロウ。一本取られましたね」
私たちの後ろから、ベナウィさんがやってきました。
「た、大将!? 観てらしたんですかい」
「クロウ、貴方の負けですよ」
「ベナウィさんの言うとおりだよ、先生!」
 ハヤトに「先生」って呼ばれたときのクロウさんは、何だかんだで嬉しそう。
それに、カスミなんかこの前、
「おとうさま。それがしもおとうさまをおまもりします!」
なんて言ってました。お側に居たトウカおば様と顔を見合わせて笑っていました。
 
でも、その時のお父様は嬉しそうだったな……
 
 
私はある夜、お父様と一緒にお月様を観ていて、ずっと思っていたことを聞きました。
「お父様」
「ん?」
「お父さんは私たち四人のなかで誰が一番好き?」
そう私が言ったとき、お父様はとっても困ってらっしゃいました。
「誰が好き、か……。コノハ、父さんはな、みんなが大好きだよ。だから、順番はつけられないな」
「みんなが、ですか?」
「ああ、そうだよ」
嘘。
それは嘘です。
「嘘です。だって、コノハは何もできないもの! 私は、私はエルフィみたいに可愛くないし、ハヤテやカスミみたいに強くもないもの!」
それを聞いたお父様は驚いて、そして少し寂しそうな顔をしながら言いました。
「コノハ……。まさか、コノハがそんな風に思っていたなんてな……」
「お父様……?」
「昔、コノハの母さんがまだ生きていたとき、そうだ、確かこんな晩だったな。母さんが言ったんだよ、私は何も皆さんにしてあげられません、ってな」
「え……」
初めて聞いたことでした。
「母さんは身体が弱くてな。そのせいで皆に迷惑をかけているといつも思っていたんだ。だけどな、コノハ。私はお前の母さんが迷惑だと思ったことなんて、一度もなかったよ。それに、母さんは何もしていないわけじゃなかったんだ」
「ほんと?」
「ああ。母さんはな、皆に優しさをくれたんだ」
「優しさ……?」
「母さんは、ユズハは、皆が戦場に行くとき、ずっと私たちの身の安全を祈ってくれた。ユズハのために頑張ろう。ユズハのために生きて帰ろう。そう皆思って戦った。それに、ユズハの笑顔は皆を優しく、暖かくしてくれた。コノハ、それはお前も同じだよ」
「え……?」
「コノハは、四人の中で一番優しい心を持っている。いつもエルフィ達が怪我しないように注意したり、エルルゥの食事作りを手伝ったりしてくれる。怪我をした兵士達の手当てをしたり、畑に水をやったりしてくれる。この城のみんながコノハに癒されているんだよ」
私は嬉しかった。
お父様が褒めてくれたこともそうだけど、あんなに忙しいのに、私のことをちゃんと観てくれていたことが、何よりも嬉しかった。
あんまり嬉しくてつい、お父様に抱きついて泣いちゃいました。
 
 
私は、エルフィみたいにお父様に甘えることができません……
私は、ハヤテみたいに強くありません……
私は、カスミみたいな覚悟もありません……
 
だけど、私は毎日幸せです。
 
 
 
 
 
 
あとがき
 
どうも、セシリアです。
 
いきなり長編とか書き出しましたが、なんか微妙に短編ぽいです。ただこれから物語は進んで行きますので、今回だけは見逃してください(笑)
 
さて、いきなり子供登場ですw それぞれの名前はすんなり決まった子もいれば、そうでないのもいます。コノハ・ハヤテ・カスミは速攻で決まりました。そもそもオボロとかトウカのような、ちょっと和風な名前は楽です。逆にエルルゥ・ベナウィのような、分類しがたいのは難しいです。ただ、どうもヤマユラ系の人物は「ァ・ィ・ゥ・ェ・ォ」がよく使われているので、それをなんとか組み込んだのがエルフィですね^^;
 
第一話からオリキャラ大爆発ですんで、原作の雰囲気を壊さないように書くのが大変です。作中ではコノハをエルルゥがひきとったということにしましたが、ちょっと無理やりだったかな?
 
SSとはあまり関係ないですが、ゲームの攻略本買いました。ゲームは持ってないんですけどねw かなりよかったです。
 
それでは、第二話でまたお会いしましょう!