うたわれるものSS
「最愛」
「兄者、洗濯老師って知ってるか?」
ユズハとの政務を終わらせて、ぶらぶら歩いている時、オボロが唐突に訊ねてきた。

「洗濯老師……なんだそれは?」聞いた事もない名前だ……。

「なんでも、眠っている時に、その人が一番求めているものを置いてくれる人らしいんだ」その話を聞いた時、私はそれが何なのかを悟った。

「オボロ……それは、サンタクロースではないのか?」

「あ〜それだ、それ。なんだ兄者、ちゃんと知ってるじゃないか」

いきなり洗濯老師ではわからんぞ、オボロ。そんな事を思いながらも、私はオボロに訊ねる。

「それで、サンタクロースが如何したんだ?」「兄者、ユズハの……ユズハのサンタクロースになってくれ」……なんだって?

「ちょ、ちょっと待て、オボロ。話が読めんぞ」「実は兄者、さっきユズハの部屋に行ったら、ユズハが突然俺にサンタクロースの話をしたんだ。ユズハは、自分の所にもサンタクロースは来るのかと聞いてきたんだ」

オボロの話を聞くと、おそらく、ユズハはカミュやアルルゥの読んでくれる本の中にサンタクロースの話があり、オボロに聞いてみたのだろう。

「しかしオボロ、その話と私がユズハのサンタクロースになるのとどう関係があるのだ?」私はオボロに訊ねた。

「正直、俺はサンタクロースっていう奴がこの世にいるとは思えない。だけど、ユズハを悲しませるような事は言いたくない。だから……お願いだ兄者、ユズハの……ユズハのサンタクロースになってくれ。この通りだ、たのむ……」

そう言ってオボロは、私に何度も土下座をしながら頼んだ。……なるほど、実にオボロらしい。「……わかった。任せておけ」「本当か、兄者? すまない」オボロは、何度もお礼を言った。
「さて、どうするかな……」私は真剣に考えていた。ユズハに贈り物をするからには、なるべく良い物を贈りたいからな……。「アレならどうだろうか? いや、ユズハにはこっちの方が……」なかなか考えがまとまらない。だが、ユズハに何を贈ろうか考える事は楽しかった。……せっかくだ、皆にも日頃の感謝も込めて、贈り物を用意するか。
私は市場に来ていた。ここなら何か良い物が見つかるかもしれないからだ。実際、様々な珍品や名品を見つけ、その内のいくつかを購入した。

「おや、ハクオロ皇ではありませんか」後ろから声を掛けられ振り向くと、そこにはチキナロがいた。

「何かお探しですか?」

「チキナロか……」

そうだ、この男なら何か良い物を持っているかもしれない。チキナロは見た事も無い物をよく仕入れてくるからだ。

「ああ。実は皆に贈り物をしたいのだが、なかなか良い物が無くてな……」私がそう言うと「それでしたらこんな物は如何でしょうか?」と言い、いろんな物を出していく。

さすがはチキナロだ。見た事も無いような珍しい品が、次から次へと出てくる。その中で私は、ある一品に目を向けた。

「チキナロ、これは何だ?」私がそれを指すとチキナロは「さすがハクオロ皇、お目が高い」と言って説明を始めた。「いつもハクオロ皇にはごひいきして頂いているので、特別に、このお値段で如何でしょうか?」

そう言ってチキナロが示した額は、いつもよりかなり安い。「こんなに安くて良いのか?」私が驚くとチキナロは「ハイ。ですから、いつもごひいきして頂いているお礼です。それに……」「それに?」「ハクオロ皇が目をつけたアレは、ユズハ様に贈るものでしょう?」ずばりチキナロに言い当てられ、私は驚いた。

「な、なぜ分かったんだ?」するとチキナロは笑顔で「それはもう、ハクオロ皇がアレを見ていた時の顔が、とても真剣でしたから、ハイ」と言った。私は顔が赤くなるのを感じた。「そ、それじゃあ、貰おうか」「毎度、ありがとうございます」こうして、私はチキナロとの商談を終えた。……チキナロ…恐ろしい奴だ……。
「さて、やるか」辺りが暗闇に覆われ、皆が寝静まった頃、私は皆への贈り物が入った大きな袋を持ち、行動を開始した。

「まずは誰にしようか……」そんな事を考えながら歩いていると、ウルト達の部屋に着いた。「最初はウルト達か」

物音を立てないように、気配を殺し、静かに部屋に入っていく。……まるで夜伽に来たカルラみたいだな……そんな事を思いつつ、袋の中にある物を適当につかみ上げる。「これは……櫛か。ウルトは髪質が良さそうだからな……それにしても、何故櫛が?」見事な細工が施された櫛をしげしげと眺めながら、いつ買ったのかを思い出す。実はチキナロが、ハクオロがユズハ用の物を見ている時に、どさくさに紛れていろいろ購入させていたのだが、ハクオロは知る由も無い。

「まあいい。さて、次はカミュの分だな……っと、これは?」引き上げた物は香水だった。「……まあ、いいか。カミュが使うにはまだ早すぎるきもするが、そのうち必要なときが来るだろう……多分」そう自分に言い聞かし、私は部屋を後にした。ムントには髭剃りが出た。

「……これで髭でも剃ってくれ」私はそう言ってムントの部屋を後にした。……髭剃りなんて買ったかな? 次に着いたのはカルラの部屋だ。……この部屋は危険だ。一刻も早く立ち去らねば……!「私はウルトの部屋以上に気を配り、念入りに気配を殺す。素早く袋の中に手を入れ、取り出した物を見る。

「これは?」出てきたのは、木彫りのムティカパだった。「見事な出来だ。これは職人技だな……そんな事より、早くここからでなければ!」カルラの枕元に木彫りのムティカパを置き、私はカルラの部屋を急いで抜け出そうと……。ガシッ 「ぬわっ」いきなりカルラに腕を掴まれてしまう。

「くっ……は、はずれん」何とかカルラの手を振りほどこうとするが、しっかりと握り締めていてどうしようもない。ギリギリギリ……。「いでででででで」しかも、だんだん握り締める力が強くなってきた。う、腕が、腕が〜〜〜。

「ど、どうすればいいんだ……」結局、それからいろいろ試して、カルラを思い切り抱きしめる事で腕を放してもらった。「……本当は起きているんじゃないのか?」そんな事を思いながらも、私はカルラの部屋を後にして、トウカの部屋に向かった。

「う〜ん聖上〜某は、某は〜」……どうやら夢を見ているらしい。私に気づいたのかと思い、焦ったぞ。そんなトウカには、人形を拭くには丁度いい大きさの布が出てきた。これなら肌触りもいいし、トウカも喜ぶだろう「ヲイデゲ―――!!!」……いったいどんな夢を見ているんだ……。

「ここはエルルゥとアルルゥの部屋だな。さて、アルルゥには何が出るかなっと……髪飾りか」今はまだ大きいが、子供の成長は早いからな……そう思い、アルルゥの頭を撫でてやる。「んふ〜」気持良さそうな寝言が聞こえてきた。「さて、エルルゥには……包丁……」いったい何故こんな物が……。「ま、まぁエルルゥの事だ、これできっと皆においしい料理を……」「ユズハちゃん……ハクオロさんを取ったら、許さないんだから〜」……多分。

次に、私はオボロの部屋に向かった。そこには、オボロとドリィ、グラァが仲良く? 寝ていた。「……手伝うと言ってたのに……まあいい」オボロには二日酔いの薬が、ドリィとグラァには弓を射る時に邪魔にならなそうな立派な肩当てがでた。続くベナウィには持ちやすそうな筆が、クロウにはモロロを模った置物と、それに付いていた酒を贈った。あらかた配り終わる頃には、暗くて何も見えないほど夜も更けていた。
「最後はユズハだな」私は先に禁裏で寝ているであろう、ユズハの元へ向かった。

「……ハクオロ様?」驚いた事にユズハは起きていた。「ユズハ……寝ていなかったのか?」「いえ……眠っていたのですが、ハクオロ様の足音がしたから……」どうやら、私が起こしてしまったらしい。

「そうか…起こしたりしてすまなかったな」「いえ……それに……」「それに?」「今日はユズハの一番欲しい者が手に入るって、お兄様が言ってたから……ユズハは、ハクオロ様が一番好き……ハクオロ様と居る事が、ユズハの一番欲しいものだから……」「……ユズハ」私は、最も愛しい者を……ユズハを抱きしめずにはいられなかった。しばらく抱きしめた後、ユズハにチキナロから購入した物を……途中、何度か引き当てたが、これだけは渡さないと心に決め、懐に移した物を渡した。

「ハクオロ様、これは?」チキナロから手に入れた物……それは、一対の鈴だった。「ツガイの鈴だ……気に入ってくれたか?」「ハクオロ様、ありがとうございます」

ユズハは嬉しそうに鈴を胸に抱いた。「あの……ハクオロ様」「なんだい、ユズハ?」「この鈴の片方は、ハクオロ様に持って欲しいのです」「わかった」私はユズハから、ツガイの片方を受け取る。

「……ハクオロ様とお揃い」「そうだな……お揃いだ」そう言った時のユズハの顔は、とても赤かった。「さてと……もう寝るか」「ハクオロ様……ハクオロ様の欲しいものは来たのですか?」私が布団に入った時にユズハが聞いてきた。

「そうだな。私が一番愛しく想うのはユズハだから……」「ハクオロ様……」「ユズハ、これからも私を支えてくれないか?」「……はい」私はユズハに身体を預け、ユズハは私に身体を預けて眠りについた。二人の存在を確かめ合うように……
 
 
 
 
 
 
 
 
どうも俊です^^
 
クリスマスSS、如何でしたか?
直す時間が無いのですがw
サクヤとクーヤは入れてません。如何するか考えていたのでw
 
気に入ってもらえると良いのですが^^
 
それでは^^



※ ごめんなさい、掲載遅れました。でも、メールで送られてきたのも3月ですよと言い訳をしてみる管理人w