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うたわれるものSS「羨ましかったこと」
 
 
エヴェンクルガ剣士・トウカは今までにない敵と戦っていた。刃を持つ手は緊張で強張り、額には珠の汗が浮かぶ。彼女はそもそも、あまり敵の情報を調べてから殺めるという手段を採らない。なぜなら彼女を突き動かすものは、基本的に主君への絶対の忠誠と己の信ずる義のみであるからだ。ゆえに、余計な情報はかえって彼女の太刀筋を惑わせるだけであった。
「く、やるなっ……」
しかし、今回の相手は少々勝手が違ったようだ。
敵は一向に反撃してこない。こちらの斬撃を、その身体をくねらせてかわし続けるのだ。一応被弾しているのだが、的確なダメージをあたえられず、トウカは大いに苦戦していた。
ただ、この戦いもいよいよ決着の時が来たようだ。
「いやあぁぁぁ!」
裂帛の気合と共に神速の剣撃が敵の身体を両断した。鮮やかな仕草で剣を鞘に収める。そして、後に残ったものは――
真っ二つにされたまな板と、無残な姿にされた魚だった……
「うわぁぁぁっ! 何故、何故こんな姿に〜〜っ!?」
トウカはまな板を見て絶望したのだった。というかそもそも、剣で魚を調理しようというところに問題がある気がするが……
「うっ、うう……ひっぐ、解らぬ! 何故だ? 某には料理の才能とやらがないのだろうか? このような有様では、エルルゥ殿に勝てないではないか。うっ、聖上ぉ……」
今現在、トウカの頭の中ではハクオロが幸せそうにエルルゥの作った食事を頬張っている。
「エルルゥの作るご飯は本当おいしいな」
「うふふっ、ありがとうございます♪」
「こんなおいしいものが毎日食べられるなんて、エルルゥと結婚する男は幸せだろうな」
「そ、そんな。ハクオロさんたら……」
途端に視線が合う。
赤くなる二人。
蕩ける雰囲気。
そして、次第に二人の顔が近づいて……
「ク、クケーーーーー!!」
ピンクな妄想に恥ずかしくなったトウカは頭から湯気を出し、そのまま扉をぶち破る。
誇り高きエヴェンクルガの剣士は、そっちの話に弱いらしい。
と、そのとき、不意に誰かとぶつかってしまった。
「うわぁ!?」
「わわ、大丈夫、ドリィ?」
「あつっ!? 失礼いたしました。お怪我はございませぬか?」
 どうやらトウカがぶつかったのはドリィだったらしい。ドリィは痛そうに腰を擦っているが、どうやらたいしたことはないらしい。
 「トウカ様、僕は大丈夫ですよ。それよりどうしたんですか、そんなに慌てて?」
 「そうですよ。それに、どこかお顔が赤いような……」
 「ひぇ? いやいやそんなことはないけしてせいじょうとえるるぅどのがせっぷ『『ト、トウカ様落ち着いてください!? なんかどこかに飛んでますよ〜』』んを……」
 (言えぬ……まさか聖上とエルルゥ殿が接吻しようとしていたなどとは)
 いやいや、しっかりこぼれてますって(笑)
 「あぁ、こほん。実は……今朝聖上に暇を頂いた故、朝からちと釣りに行って来たのだ。そこで思いのほか魚が釣れたから、その、聖上にご賞味して頂こうと思ったのだが……」
 トウカがそう言いながら釣ってきた魚「だったもの」を指差した。まな板の上の悲惨な魚の骸を見たドリィとグラァの表情は硬い。グラァが恐る恐る刺身らしきものを掴むと……何故かその身が崩れた。
 (さ、魚から瘴気!? 一体どうやればこうなるのかな?)
 (ドリィ。それは解ってても言っちゃ駄目だよ! ほら、トウカ様泣きそうだよ)
 (で、でも、こんなの食べたら兄者様の命が危ないよ。そしたら若様が悲しむよ)
 同時に頷き、そして……
 ((ここは僕たちが!))
そんなことをお互いに目で会話している。長年一緒にいて手に入れた、二人の特殊技能である。そして二人はあることを提案した。
 「あの、トウカ様。僕たちで宜しければ、お手伝いしましょうか?」
 「え、今なんと?」
 「ですから、僕たちでよければお手伝いさせてください。それに、このお城に来る前は若様のお食事も作ってましたから、味には少し自信がありますよ?」
 「それは本当か!? すまぬ! 恩に着ます、ドリィ殿、グラァ殿!」
 「「いえいえ、気にしないでください♪」」
 トウカは知らない、二人の頭の中に浮かんでいる図式を。すなわち――
 
 手伝う→兄者様機嫌良くなる→若様ハッピー→一緒に寝てもらえる(かも)→それから先は……ヒ☆ミ☆ツ!
 
 美しいように見えて、どこか打算的な友情である。
 
 
 さて、いよいよドリィ・グラァの「ドキドキッ! 乙女(?)の料理教室♪」の始まりである。
 「トウカ様。お顔がちょっと怖いです……」
 「そ、そうか? だが、これから作るものは聖上のお口に入るもの。半端な気持ちではできませぬ!」
 「グラァじゃないですけど、そんな怖い顔で料理したら、美味しいものはできませんよ?」
 「そうなのか!?」
 知らなかった……と、いう顔である。
 「はい。料理のコツは、好きな人のことを想いながら作ることと、少しの欲望ですよ」と、ドリィ。
 「……その、欲望とは?」
 「え〜と。まずは包丁の持ち方ですけど……ドリィ、包丁取って」
 「はいどうぞ。トウカ様♪」
 何かどことなく気になる発言だった気もするが、トウカは目の前の魚に集中する。なんとなくオボロの身が心配になるトウカであった。
 色々不思議なことを言う二人だったが、いざ調理が始まると二人は良い先生だった。トウカは最初、魚をただ単純に捌いて刺身として出すことしか考えていなかったのだが、グラァの提案で煮付けも加わった。そして、ドリィがトウカに包丁での上手い魚の捌き方を教えてみたところ、先程とは比べ物にならないほどきれいに捌くことができた。
 「トウカ様は筋がいいですねぇ。ほんのちょっと教えただけなのに……」
 「そ、そうか? なんとかまともに出来てよかった。やはり刃には、こう、なんというか『呼吸』のようなものがある」
 事実そうなのだ。
 そもそも武器、とりわけ刃のあるものには、それ自体に潜在的な「流れ」がある。トウカは「呼吸」と称したが、それもあながち間違いではない。普通の使い手はその流れに気づかないが、刃を使う上では最も重要なことである。なぜなら、そのもの本来の切れ味を出すことができるのは、この「流れ」を知らないとできないからである。実は、普通の人間には刀の切れ味を半分も出せていない。一流の使い手になってくると刃に触れただけでそれを感じることもできる。トウカ程の実力があれば、それは十分可能なのである。
 「お刺身はこれで大丈夫ですね。そうしたら今度は、お魚をお鍋に入れてください。グラァ〜、そっちの準備は出来てる?」
 「オーケーだよ、ドリィ」
 そうして今度は切れ目を入れた魚を鍋に入れる。醤油・酒をベースに味つけをしていくと、次第に良い匂いが辺りに流れる。
 「あ、トウカ様。最後にお砂糖で味を調えてくださいね」
 ドリィがそう言って器を差し出すと、トウカは何の疑いも無くそれを受け取り、言われた分量を投入する。そのまましばらく経って、遂に全ての調理が完了した。
慎重に配膳を済ませたトウカは二人に一礼すると、すぐにハクオロの元へと走っていったのだった。
と、走り去って行くトウカの背中をドリィが見送っていると、突然グラァが調理場から飛び出してきた。
「ああっ!? ドリィ、大変だよ! ドリィがトウカ様に渡したのってお塩だよ!?」
「ええ!? うわわっ、どうしよう……」
ドリィの顔が一瞬で青ざめる。
「と、とにかく急いで追いかけないと!」
二人は同時に頷いた。
 
 
「聖上。いらっしゃいませぬか? トウカでございます」
トウカがハクオロの部屋を訪ねたとき、部屋に彼の姿が無かった。とりあえず夕餉を机に置き、辺りを見回すと、手摺りの前に彼がいた。トウカが後ろから近づくと、ハクオロがいつもの優しい微笑みを浮かべて振り向いた。
「ん、トウカか。どうしたんだ?」
「いえその、実は今日、以前聖上と御一緒した沢に行きまして……そこで魚がとれたので是非ご賞味頂けないものかと思いまして……」
「そうか。魚篭は新しくしたのか?」
ハクオロがあの時のことを思い出して笑った。あの時は折角釣った魚たちを魚篭に入れておいたのに、不覚にも魚篭の底に穴があいていて、そこから逃げられてしまったのだ。
「聖上〜、それは言わないでくだされ」
「はははっ。すまんすまん」
「全く……聖上もお人が悪い。ああっと、それより聖上。ささ、こちらへっっ」
トウカに案内されたハクオロは、思わずその夕餉の内容に感嘆もらした。初めて見るトウカの料理に、内心驚きを隠せない。ただ同時に、自分のためにしてくれたのだというえも言えぬ、幸福感に包まれた。
「これはすごいな……。トウカ、頂いてもいいかな?」
「は、はい!」
まずハクオロは、丁寧に切られた刺身を口に入れた。ほど良い厚さに切られたそれは、決して食べるものに抵抗を与えない。
「うまい」
 「本当ですか!?」
 「ああ、筋もきちんと取ってあるし。よほど気を遣ってくれたのだな」
 「い、いえ。大したことでは……」
 そう言いながらも、トウカの顔は満足そうで、ハクオロは思わず見惚れてしまった。
 (トウカも、やはり女の子なのだな……)
 続いて、煮付けに箸を伸ばす。箸を身に入れると柔らかく崩れ、しかしほのかに形をのこしたそれは、ゆっくりとハクオロの口に到達した。
 そして――
 「…………!」
 「ど、どうでしょうか? 聖上?」
 「あ、ああ。うまいぞ、トウカ……」
 「そうですか!? いえ、この煮つけには少々自信がありまして、きっちりと『砂糖』の量を量って入れましたから。きっと美味しいと思ったんです♪」
 (さ、砂糖!? それでは何故こんなにしょっぱいんだ……。塩の間違いではないのか?)
ハクオロさん、大正解(笑)
とはいえ、折角のトウカの想いを無駄にするわけにもいかず、ハクオロは何事もなかったかのように食べ続けた。一切れ口に入れるたびにまるで海水を飲んでいるような気分にさせられる。
「聖上。その、よろしければ某にも一口頂けないでしょうか?」
「何!? いやしかし……ちょっと待て、トウカ!」
言うが早いかトウカは、ハクオロの努力によってそのほとんどが食べられた魚を一口頬張る。すると案の定、
「うぐっ!? こ、これは……も、申し訳ございませぬ! 某、何たることを!」」
「いや、トウカ。……その、なんだ。これはこれで……」
ハクオロが慌ててフォローするもののどうにもトウカの動揺を止めることができない。そしてトウカは、徐に腰に挿された愛刀を抜いた。
「……聖上。この度はこのような失態、申し訳ございませぬ。そもそも某のようなものが聖上の召されるものを作ろうと思うこと自体が間違いでございました。一度は聖上に救われた命ですが、今日この瞬間をもって……」
「待て、待つんだトウカ!」
「せ、聖上!?」
トウカがその手で自らの命を絶とうとしているのを悟ったハクオロは、慌てて彼女を抱きしめ、その自由を奪う。頭の後ろに手をやり、櫛で留められた美しく長い髪を撫でてやる。普段は凛々しく戦場を駆ける彼女の肩の細さを改めて感じる。こうして少し強く抱きしめると、今にも折れてしまいそうで心もとない。
「…………某は、羨ましかったのです」
「羨ましい?」
「某は、エルルゥ殿のように聖上のために美味しい料理を作ることができませぬ。エルルゥ殿の料理を食べている時の聖上のお顔はとても幸せそうで、そして優しいのです。あの笑顔は、エルルゥ殿だけのものなのかと思うと……。某は、あの笑顔が欲しかった……」
「トウカ……」
トウカは別に、エルルゥが憎い訳ではないのだ。しかし自分には剣しかないことを、同時にいつも悩んでいる。何度かハクオロと肌を重ねているが、常にその思いは離れずトウカを苦しめているのである。
「私には最高に美味しく感じたぞ、トウカ?」
「……えっ?」
あれほどひどいものを何故? という疑念がトウカの頭に浮かぶ。どういうことなのか判らず、涙を湛えた瞳を向けると、彼は優しく微笑みながら言うのだ。
「あんなに愛情の篭ったものが、不味いわけないだろう? それに、私は別に味が良いからエルルゥに感謝しているわけではない。私のために一生懸命作ってくれた、それが一番嬉しいのだ。トウカの料理も、私は本当に美味しかったと思っているし、感謝している。トウカ、本当にありがとう……」
「聖上……」
ハクオロの言葉に、トウカの胸が熱くなる。彼女はこのとき初めてエルルゥの気持ちが理解できた気がした。それに気づけば、二人の距離はお互いの鼻がくっつくほどに近い。最初に調理場でした妄想のような状況に、現在自分がいることを実感する。朱かった顔が、さらにその朱みをしていく。
密着した身体。
目の前にはハクオロの唇。
距離は目と鼻の先。
トウカがゆっくりとその瞳を閉じると――
 
今、二人の影が一つになった。
 
 
「ドリィ、なんかうまく行ってるみたいだよ?」
「お二人に謝ろうと思って来たのに、これじゃ入るに入れないよ……」
実はさっき到着したのだが、完全に入るタイミングを逃してしまったのだ。二人は階段からギリギリ見られないようにして、中の様子を伺っている。
「グ、グラァ……これは早く戻ったほうがいいんじゃ……」
「う、うん……」
二人は顔を真っ朱にして、足早にその場を後にしたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
 
 
いやはや稚拙なものをスミマセン(汗) 
 
私にはギャグを書く才能が無いことを実感しました。難しいですねぇ……皆さんどうしてあんなに書けるんでしょうか? 今回の作品はそんなことがあって、とても難しかったです。軽い気持ちで書き始めたんですが、一筋縄でいかないものです。
 
エルルゥ以外のヒロイン達が料理してるのって見たことなかったものですから、どんな感じになるだろうかと想像した結果がこれですね^^; ゲームの方ではそういうシーンがあったりするんでしょうか?
 
あと、トウカの台詞が非常に難しかったです。アニメだけだと口調が完全にイメージできず、かなりおかしな感じだったと思います。気分を害された方がいらっしゃいましたら、真に申し訳ございません。